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垂直統合から水平分業へ [コラム]

企業の経営戦略を考えるとき、特定の市場にサービス提供するための全機能を自ら用意する「垂直統合型戦略」と、水平分業された機能のうちのどこか特定部分のみを提供する「水平分業型戦略」のどちらを取るのか選択を迫られるときがある。IT業界の最近の動向を俯瞰すると、業界は大きく垂直統合型から水平分散型に転換しているようだ。しかしながら水平事業を単独で立ち上げるのは難しく、いかにアライアンス戦略を組めるかが成否を分けると考える。



◇◇◇



IT業界において垂直統合戦略で成功した代表例はマイクロソフトだろう。クローズなOSと、その上で稼動するアプリケーション製品群を自社開発して販売することにより、「文書作成」や「表計算」や「メール」といったデスクトップ・ユーザーのニーズを満たし、さらにデスクトップでの支配力を梃子にサーバー市場でも勢力を拡大してきた。ユーザーのニーズをすべて自社製ソフトウェアで提供することが同社の成功の秘訣だった。一時期のマッキントッシュも垂直統合戦略だった。ハードウェアもソフトウェアもそれらをつなぐ通信規格もすべて自社で支配・統合しながら高い完成度でマックの箱の中に隠蔽することでユーザーはハードやソフトの面倒な取り回しを意識しないで済むようになり、マックは一世を風靡した。



これに対して水平分業の典型は最近の例ではWeb 2.0の世界だろう。特定の機能を持ったサイトどうしが相互に連携しながら処理を行うことが簡単に実現でき、ユーザーは一つのサイトを見るだけで従来では考えられなかいくらい高度で広範囲な情報を利用することが出来るようになった。例えばこのブログにも使っている「Google Adsense」では、このブログ上にGoogleのサーバーにつなげるための一種のAPIを書き込むだけで、表示すべき広告はGoogleのサーバーがすべて処理してくれる。このAPIがなかったらこんな高度はページはとても作れない。水平分業のいい例だろう。また、半導体業界でも水平分散が進んでいて、半導体の設計、製造、設計ツール等に特化した企業が次々に現れて、従来からある垂直統合型の企業の市場を脅かしている。たとえばQualcomm社は北米での携帯電話向け半導体を独占し、台湾のTSMCは圧倒的な低コストで半導体を製造することが出来、ARM社は組込半導体のCPUコアではデファクト的存在だ。



IT業界では大きく言って80年代は垂直統合の時代、90年代に入って水平分業型が登場し、2000年代では水平分散型が垂直統合型を脅かす存在なったと見ている。
80年代のIT業界と言えば、IBMに代表されるメインフレームとこれを模した企業が業界を支配していた。通信業界でも例えば日本ではNEC、富士通等が電電公社やKDDに独占的に製品を納入していた。
90年代に入ると「オープンシステム」という言葉が出てきて、ハードウェア、制御系ソフト類、アプリ系ソフト類にそれぞれ別個のベンダーの製品が使われるようになり、それぞれの分野の雄が誕生した(例えばSun、Oracleといった専業ベンダー)。しかしこの段階でもなお最大の力を持ちえたのはマイクロソフトであり、マイクロソフトは引き続き垂直統合的な事業戦略をとっていた。同じようにSAP等も垂直統合によって業績を伸ばした。
その後、2000年代(というかここ2~3年)になって水平分業が大きく飛躍してきた。いろいろな背景があろうが、IT業界が成熟期に入ってコスト引き下げ要求が厳しくなったこと、ユーザーニーズが高度化して単独の企業だけでは開発出来なくなったこと、特定分野に特化して専業化した方がスケールメリットを活かせること等であろうか。この動きはソフトウェア、ハードウェア、半導体、通信など、IT業界のあらゆる分野で同時に進行しているように見える。



このように垂直方向から水平方向に業界構造が大きく変化している時代にあってはベンチャー企業はどのような戦略を取ればいいのだろうか。



ベンチャー企業の限られた資金力を考えたとき、垂直統合よりも水平分散の方が資金が少なくて済みそうだ。その意味で水平分業型の方がベンチャー企業にはなじみやすく、業界が水平型に転換している現在はベンチャー企業が起業しやすい環境と言えるだろう。しかし水平分散型における大きな課題は、単独の企業が特定の機能を提供したところで、それ単独では存在しえず、ユーザーにサービスを提供するため他の企業等が提供する機能と連携・統合しなければならないことだ。この統合の過程において関係企業間で諸々の交渉が行われることになるだろう。ビジネス的・技術的な連携方法や利益の配分方法など、悩ましい問題が多々発生するはずだ。また弱者同士が連携したところで成功する可能性は高くないだろう。かといって強者と連携すれば利益配分において足元を見られかねない。このあたりをどのように切り抜けるかが最大のポイントになるはずだ。



小職が関わっている半導体ベンチャーも水平分業型の戦略を取っているが、アライアンスには終始苦労している。あまりに苦労するのでいっそのこと多額の資金をつぎ込んででも垂直統合型企業に切り替えようかという議論が何度もあった。結果的にこの企業は水平型を継続しているのだが、もし垂直統合に切り替えたら、という思いは尽きない。このあたりの舵取りが経営の難しさなのだろう。


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