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[VC投資論7] 出口について [VC投資論]

すっかりご無沙汰してしまったが「VC投資論」を再開したい。今回は「出口」について。



「出口」というのは、VCなどの投資家が投資した資金を回収するイベントのことを指す。VCが投資する企業は一般に未公開企業なのだが、未公開企業の株式はそのままではほとんど売買する場所がないので、VCはその株式が将来的に「売買可能な状態」になっていくことを期待するわけだ。具体的には、①株式公開②M&Aによって大手企業等に買収される場合などがそれにあたる。
この出口という言葉はVCの都合から出てきた言葉、VCの視点でしか物事を見ていない言葉であり、投資を受ける企業の側からしたらちょっと顔をしかめたくなるような言葉でもあるが、VCが金融商品を取り扱う業者である以上、概念としてこういう言葉が存在するのはやむを得ない。それを理解した上でVCとうまく渡り合う道を探るべきだろう。



さて、①株式公開については日本の読者の皆さんも馴染みが深いと思うので、株式公開そのものについてはここでは説明を省く。重要なことは、日本のVC業界にとっては株式公開がほとんど唯一無二の出口の手段であったことだ。IPO市場の動向がVCの業績に直結する構造になっている。しかしながら、最近の日本の新興市場株式について下記のようなことが指摘されている。



  • 新興市場全体が低迷しており盛り上がっていない。一世を風靡したベンチャー企業の多くが業績の伸び悩みに直面し、投資家が失望して株価が低迷する例が頻発している。
  • 2005年までは株式公開による公募株式への投資は必ず儲かる投資だったが、上記のような市場環境を受けて最近はそうとも言えず、IPO後の株価が公募価格を下回ることもしばしば起こっている。またIPOの件数が昨年を下回って推移しており、低調の感を拭えない。


つまり、最近はVCにとっては苦しい状況になってきているわけだ。



こうした状況を打開するため、どんな打ち手を考えることが出来るだろうか。こうした状況になった原因は、つまるところベンチャー企業が投資家(個人投資家、機関投資家等)から信用されなくなってきたということだと考えられるが、そうだとすれば、この状況を脱するには投資家からの信用を回復することが必要だ。そのために、ベンチャー企業は



  • 株式公開をゴールとせず、株式公開後も大いなる成長を目指し、着実に達成する




ということに尽きるのではないか。



日本の新興市場では年商10億円ぐらいあれば株式公開できてしまうようで、これは米国その他の諸外国と比較してもかなり低い水準であり、言い換えれば日本はとても株式公開しやすい国なのだが、その株式公開のしやすさが裏目に出ている気がする。株式公開後も事業を飛躍的に拡大して、例えば年商50億円、出来れば年商100億円以上のビジネスを目指し、これを実行していけるようであれば公開株式に投資する投資家も安心するというものだ。現実は決して楽ではないが、起業家、VC等関係者が一丸となって対処すべき時期に来ていると考える。



次に②M&Aについてだが、日本もM&A件数は増加傾向にあって2005年に2,800件程あったようだ(出典)。明細を示すデータが手元に無いので不詳だが、残念ながらこれらの大半はVCが絡んでいるわけではなさそうだと感じている。私の身の回りではM&Aによってベンチャー投資の出口を実現した例はそれほど多くなくて、想像では団塊世代の大量定年時代を向かえ、後継者不足に悩む中小企業による事業承継目的のM&A等が多いのではないか。



ベンチャーが関連するM&Aが増えるにはどんな要因が必要だろうか。私は世界的なレベルで活躍する日系大企業と日本のベンチャー企業との関係がもっと深まらないものかと期待している。



世界的に活躍する日系大企業は「自前主義」の会社が多いように思う。完成品としての商品だけでなく、それを構成する部品や材料まで自社や系列企業で開発したり、場合によっては販売まで自前で行う。自動車、電機がこの典型だし、どちらかと言えば閉鎖的で階層的な構造になっている通信業界等にもこの傾向がある。これらの企業・企業グループの中核には必ず「中央研究所」があって、ここであらゆる分野の基礎研究を行い、次世代の技術を開発しているわけだ。



市場動向が「予測可能」であればこの形はとても効率的だ。同じグループに属する顔見知り同士が、効率的に「すり合わせ」しながら、高機能・高品質な商品を短期間で開発することが出来よう。日本の自動車や電機メーカーの強さの源泉はこの自前主義であったと考えている。しかし、市場が予測困難になればどうだろう。市場が自らの想定外の方向へ想定外のスピードで行ってしまう。大企業グループは何しろ関係者が多いので、そうした予想外のことには身軽には追随しにくい。つまり時代が予想外の方向で展開していく時代にあっては、このモデルが万能だとは言えなくなってくるのではないか。



そこで提案したいのが、大企業とベンチャー企業のコラボレーションだ。予測が難しい未来に挑戦するのがベンチャーの本質であり、そうして成功してきたベンチャーを大企業に取り込む動きがもっとあってもいいのではないか。Google, Yahoo, Intel, Cisco、、、等、米国を代表するハイテク企業はみなこのパターンで、自社で強力な中央研究所を持たずに、代わりに成功しつつあるベンチャー企業を買収することで新たな技術や市場を取り込んでいる。IBMのように、自らが興味ある分野をVC等にささやき、その分野での起業意欲を高める活動をしているところまである。こうした米国型のモデルを取り込み、日本の優良ベンチャーを日系大手企業が買収することで、双方がハッピィになれるような場面があってもいいと考える。



あるいは逆に、大企業内ではリスクが大きくて資金を投入できないプロジェクトに外部リソースを使用するという考え方もあってもいい。欧米ではこの手のスピン・オフ、スピン・アウト企業が実に多い。親元企業との連携を確保するカーブ・アウトも面白い。あまり日本では流行っていないが、VCはじめどこの投資家も金余りで投資先を探っている現在の状況下では、こうしただぶつき気味の資金をうまく使ってビジネスを創造していくという考え方があってもいいと考えている。


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