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日米VC違いシリーズ ~ EXIT [ベンチャー投資]

"EXIT"というのはVC業界特有の言葉だが、株式公開なりM&Aなりで手持ちの未公開企業の株式を換金可能な公開株に変えて売却し、投資を終了させることを言う。このEXITこそがVCの売上の源泉となる極めて重要なイベントなのだ。

ベンチャー企業の株式公開に関する限り、現在の日本は世界的に極めて恵まれた状況にある。毎年100社以上のベンチャー企業が公開する市場はそれほど多くない。しかも驚くほど取引が活発で流動性が高い(少なくとも公開直後しばらくの間は)。日本のベンチャー企業の皆さん、日本の株式市場は世界的に見てもとても恵まれた状況にあります。

アメリカは日本よりももっとずっと厳しい状況にある。ネットバブル崩壊後、米国のベンチャー公開市場として機能していたNASDAQは2002年前後は完全にIPOがストップした。IPO件数はその後緩やかに上昇しながらも現時点ではまだまだ盛り上がりに欠けている。
いろいろな理由があるだろうが、まず第一に投資家がそれ程IPOには熱狂していないように見える。加えて、IPOを引き受ける証券会社の要求がとても厳しいようだ。たとえば、○○業界でIPOするには、売上高○○○ドル、利益○○ドル、利益率○○%、といった具合のコンセンサスがあって、このコンセンサスをクリアしないと公開にたどり着けない。このコンセンサスがざっくり言って日本の数倍以上あるのだ。
さらに、SOX法が大きな影を落としている。SOX法の下では、CEOとCFOは様々な義務を負うが、たとえば会計報告書に虚偽や記載漏れがないことを保証しないとならず、虚偽があるとCEOとCFOは刑務所に入れられることになる。これに対処するため、米国で公開を目指すベンチャー企業は会計システムや内部統制システムを多大な手間隙をかけて作らないとならず、大きな負担になっている企業が少なくない。

これだけ厳しい状況にありながら、ベンチャー投資の総額は衰えていない。EXITもどっこい頑張っている。このあたりがアメリカVC業界の底の深さなのだろう。米国でのIPOが難しいのでM&Aを多用してなんだかんだいってEXITさせたり、アメリカ以外の市場(イギリスなど)での公開を実現してしまったり(英語圏の強み!)、あるいはアメリカへの投資に見切りをつけて中国やインド、イスラエル、ロシアなどへ投資をシフトさせたりしている。そうしたダイナミックさがアメリカの真骨頂なんだと思う。

アメリカ人の間で日本のVC業界が話題に上ることは驚くほど少ないが、僕の目から見ればきちんと情報が伝えられていないだけで、納得のいく説明が出来れば再び彼らが日本に目を向ける日が繰るのではないか。実際、アメリカ発の再生ファンドやバイアウトファンドなどはうまく日本に上陸しているように見える。今後、この動きがEXITが好調な日本のVC市場に再び向けられる日が来るかもしれない。


日米VC違いシリーズ ~ バリュエーション [ベンチャー投資]

今回は少々大胆な仮説を立ててみた。

「日本のベンチャー投資におけるバリュエーション(株価)は低い?」

ここ1~2年の間に日本で株式公開したベンチャー企業の例を見る限り、それら企業が未公開だった段階で行われた投資ラウンド時のバリュエーションが低い例が見受けられる。何に対して低いかというと、欧米における同じような事業構造や成長率を持つ企業のバリュエーションに対して低い、という意味だ。バリュエーションはケースバイケースであり、一言で全体感を表現するのは難しいが、「低いケースが目に付く」というのが妥当な書き方だろう。本当に低いのだろうか?

たとえば、昨年マザーズに上場したIT系企業A社の場合、売上高成長率100%以上、利益率10%程度、公開時のPER70倍程度、PSR4倍程度であったが、未公開の段階で行われたファイナンスではPER10倍以下、PSR0.4倍以下、というような例がある。未公開の段階での投資にはリスクがあるとは言え、この企業に未公開の段階で投資した投資家は、かなり安い価格で投資したようだ。似たようなケースが複数認められる。

ここ1~2年の間に株式公開した企業のバリュエーションが低く抑えられてきたのは、まず時代背景が影響しているだろう。最近公開した企業が掻い潜って来た2000~2003年の日本ベンチャー投資市場は苦しい時期だったはずで、どちらかと言えば投資家サイドの力が強く、バリュエーションが低めに抑えられたのは理解に難くない。しかし、そうした時代背景だけにとどまらず、普通株を使うことによるダウンサイドリスクを投資家側が嫌い、優先株を使う場合よりもバリュエーションが低く抑えられ易い構造にあるのではないかと考えている。

先のエントリーで、日本のベンチャー投資では普通株が主流で、株式種類に関する限り日本の投資家の多くは欧米の投資家に比べて不利な条件で投資していると書いたが、その株式種類での劣勢を、バリュエーションを低めに誘導することで補っていたのではないだろうか?優先株やそれに付随する諸々の契約条件を駆使することにより将来発生するであろう様々なリスク(価格低下リスク、倒産リスク、など)に前向きに対処しようというのが欧米流のVC投資術だとしたら、日本でのベンチャー投資では株式種類や契約条件面はいたってシンプルに済ませて投資家には何らメリットを与えない代わりに、投資時点の価格だけは投資家に有利になるよう低めに設定する方向に力が働いたのではないかと思うのだ。まとめると、私の仮説は下記のようになる。

欧米流VC投資 = Fair Valueでの投資 + ガチガチに権利を守られた株券
日本流VC投資 = Under Valueでの投資 + ごく一般的な権利しかない持たない株券

これは私が勝手に立てた個人的な仮説だが、少なくともいくつかのケースには当てはまるように見えるので、日本のVC市場の特異性を示すかもしれないものとして興味深く思っている。

そうは言いながら、最近は日本のベンチャー投資市場も非常に盛り上がっているようでバリュエーションが上がり気味だとの噂が聞こえてくる。
「言うだけ番長」さんのコメントのように、優先株の使用が一般化している例もあるようだ。今後は「はるさん」コメントにあるように上場株式においてすら議決権に違いがある株式が出てくるのかも知れない。
今後の日本の未公開株式投資がどう発展していくか興味深く見守って行きたい。


日米VC違いシリーズ ~ 普通株と優先株 [ベンチャー投資]

日本のベンチャー企業投資の世界では多くの場合普通株を使うようだ。投資家はベンチャー企業に投資する際、出資金の対価として普通株を取得する。普通株とは特別な権利が何もついていない文字通り「普通」の株券のことで、株式市場に上場された株式を売買する際にもこの普通株を使う。その意味ではシンプルでいいとも言える。VECの調査によるとどうやら8割が普通株を使い、それ以外の手段は2割しかないらしい。

ところが欧米投資家の目から見ると、ベンチャー投資に普通株を使うというのはとても変わって見える。

欧米のベンチャー投資の世界ではほぼ100%優先株を使う。つまり投資家はベンチャー企業に出資するかわりに、「特別な権利」がついた優先株を取得するわけだ。「特別な権利」にはいろいろな項目が含まれるが、ほぼ確実に含まれるのは①「会社の売却時や倒産時に優先的に投資額の何倍かを回収できる権利(残余財産優先分配権)」だろう。この条件によって投資家の出資金は普通株などの他の株式よりも優先的に取り扱われ、投資家の出資金が多少は保護されることとなる。
さらに、②「将来株価が下がったら、下がった分に見合うだけの株を追加発行させる権利(希薄化防止条項)」などが追加されることも良くあることだ。ちなみにこの②については日本でも普及し始めているようだ。

こうした株式投資時のテクニックにより、欧米のベンチャー投資家は日本の投資家よりも保護されている、逆に言えば株式の種類に関する限り日本の投資家は不利な条件で投資していると言える。

しかしながら、株式種類の劣勢を補って余りある慣例が日本のベンチャー投資の世界にはあるようだ。おいおいご紹介したい。

 


こんなに違う ~ 日本とアメリカのベンチャー投資 [ベンチャー投資]

前回エントリーから間が開いてしまったが、その間、日本のベンチャー投資についていろいろと研究してきた。米国ベンチャー投資家の目から見た日本のベンチャー投資の状況について思いつくままにエントリーしていきたい。


中国に流れるVCマネー [ベンチャー投資]

中国に流れるマネーが止まらない。
不動産投資のお金ではない。ベンチャー企業に投資するVCマネーだ。

米国のVC業界誌が報じたところでは、米国系の一流VCがこぞって中国に投資するVCファンドを集めているという。ざっと数えると、約30ファンド、50億ドル弱もある。数字が非公開となっている分もかなりあるので、実際にはさらに数億ドルぐらい上乗せされそうな様子だ。最近は円安なので1ドル=120円としてこの数字を換算すると、50億ドルは6千億円になる。この金額を3年間で投資すると仮定して、1年あたり約2千億円の資金が中国国内のベンチャー企業投資に振り向けられることとなる。
まだ資金を募集している段階なので実際にこれだけの資金が集まるかどうかはわからないが、中国VC市場がウン千億円規模にまで一気に成長しつつあることは確かなようだ。

ちなみに、アメリカで1年間に投資されるVCマネーの総額は約2兆円、IPO景気に沸く日本ですら年間2千億円ぐらいと聞いている。VC投資マネーに関する限り、中国は日本を射程内に捕らえつつあるようだ。

この巨額マネー、最終的にはいったいどこへ行くのでしょう?


低迷するエンジェルマネー [ベンチャー投資]

ベンチャーキャピタル(VC)に身をおきながらこういうのもなんだが、VCが投資するのは極めて稀だ。投資候補が100社あるとすれば、その中から投資するのはおそらく一桁だろう。「投資できる」と言った方が正確かも知れない。誰もがいいと思うような会社にはそうそう投資する機会に恵まれないのだから。

創業間もないスタートアップ企業の場合にはVCからの投資はさらに狭き門となる。これまでたびたびブログで触れてきたように、VCといえども人様のお金を運用している手前、無尽蔵にリスクを取れるわけではないからだ。

米国ではそんなVCがカバーできない領域にあるスタートアップ企業への資金提供を「エンジェル」と呼ばれる個人投資家達が賄ってきた。こうした個人投資家たちは自己資金でスタートアップ企業に投資し、うまくいけば何百倍・何千倍ものリターンの獲得してきたのだ。

しかしながらエンジェルが華やかだったのも今は昔、今やエンジェル達の行動もやや変調してきたようで、スタートアップに投資する資金が減っているという。原因はおそらくVCがレーターステージを重視するようになった結果アーリーステージへの投資資金が手薄になり、エンジェルが得意としたスタートアップ段階での投資とうまく橋渡しが出来なくなっているからだと考えている。橋渡しが出来ないとどうなるか、、、スタートアップ企業に投資ししてせっかく芽が出てきても、その後を支援してくれる投資家が出てこないとなるとその会社は資金繰りに困ってしまうことになりかねないのだ。なんとか資金をやりくりできないと、その段階で倒産してしまうことも少なくない。ちきんとした統計データの裏づけはないが、そいうした過程を通じて懐を痛めてしまったエンジェルも少なくないはずだ。

ベンチャー企業が発展していくステージの中で最もリスクが高いスタートアップの段階を如何に乗り越えるか、あるいはこの段階にある企業を如何に支援できるか、各プレーヤーのあり方が問われているのでしょう。実際にそうした状況を体験しながら、つらさを身をもって味わっています。

それにしてもベンチャー企業の社長達のタフなことったら。。。とてもつらい状況なのに、常に状況を前向きに捉えてひた向きに前進しようとします。僕もそんな彼らからエネルギーをもらっているように感じます。


カリスマかチームプレイか [ベンチャー投資]

米国で最高ランクに位置づけられるVCにはおしなべて知名度の高い名物キャピタリストがいるようだ。こうしたキャピタリスト達は投資家としての能力もさることながら、投資した企業を成功へと導く指導力の点でとても重要な役割を果たすと見ていいだろう。

うちのオフィスの近くにベンチャー企業があるのだが、その企業はとても先進的な技術に取り組んでいて、2年前だったらマーケットが立ち上がっていなかったと思える事業領域でマーケットを作り出し、その分野でオンリーワンのリーダーになってしまった。バックには大御所のKPCBがついているらしい。市場の1歩先を行く技術を開発しているベンチャー企業は世の中に数多いが、市場よりも早すぎるためか市場形成に苦労することが多い。それなのにKPCBのような大御所たちの手にかかるとどういうわけかそうした先進的なベンチャー企業たちは市場形成に成功し、大成功してしまうことがよくあるのだ。「カリスマの指導力」とでもいうものなのだろうか。かくしてカリスマ型VCは米国におけるVCの典型だと考えられているように思う。

もしカリスマ達に悩みがあるとしたら、カリスマ依存のVCは、カリスマの数で事業規模が決まってしまうことだろう。カリスマがそんなにゴロゴロといるわけでもない。スケーラビリティに欠けるというか、ある程度の規模にまでしか拡大していけない限界点のようなものがあるのかも知れない。

でもシリコンバレーではよくしたものでカリスマには頼らずチーププレイを前面に押し出す有名VCもある。そうしたVCでは個々のメンバーのレベルも高いが、分業とコラボレーションに重点が置かれチームプレイに徹するように求められているという。

なんだか、サッカーで南米の個人技と欧州のチームプレイのどっちが強いかという議論に似ているような気もするが、チーム型VC対カリスマ型VCの試合の歴史はまだ浅いため、どちらが勝っているのかまだ結論は出ていないようだ。

しかし、コンサルティング業や弁護士事務所といったVCと似たような(似たように思える)業界では世界的な大企業が出現していることを見ると、VCが企業として大きくなっていくということもありえるのだろう。個人的にはチーム型VCにより多くの可能性を感じ、その動向にとても関心を寄せている。


ベンチャーキャピタルから投資を受けるということ [ベンチャー投資]

いろいろな起業家の方と話をしていると、ベンチャーキャピタル(VC)から資金を受けることの意味をよく理解されてないことがたびたびある。これはVC業界がまだまだ小規模な業界で社会的な認知度が低いことの裏返しかも知れない。起業家や起業家を目指す方の参考になればと思い、VC資金を受け入れることの意味を整理してみた。

ベンチャー企業の資金調達は何もVCだけに頼らなくてもいいはずだ。豊富自己資金があればそもそも外部からの資金調達は必要ないし、身近な親戚や知人から借りたり、銀行や信金から融資を受けてもいい。VCから資金を受けるということと他の金融手段は本質的にどう違うのだろうか?

資金調達の方法は、大きく言えば2つあると思う。実際にはもっと多様なのだが、話を簡単にするために話を単純化しているのでご容赦を。

  • デッド・ファイナンス (いわゆる貸金)
  • エクイティ・ファイナンス (いわゆる投資、あるいは出資)

デッド・ファイナンスとはいわゆるお金の貸し借りのことだ。デッド・ファイナンスは資金の出し手が受け手から「利息」をもらうことで収益を上げるビジネスだが、前提として「元本が返ってくること」が確実でなければならない。あなたが友人から金を貸してくれと言われたら、まずはその友人がきちんと元本を返してくれる人か気にするだろう。デッドファイナンスにおいてはこのように元本返済を確実にすること大前提になる。その上で、借り手の信用度や資金使途等のリスクに応じて利息が決められる。この「元本返済が約束(担保)されていること」と「利息を払うこと」の2つの組み合わせがデッドファイナンスの本質だと言える。言い換えると、元本返済を確保した上でどの程度の利息を課すかを議論することになる。デッド資金の出し手は自ずと「安全性志向」となる点に注意しよう。

エクイティ・ファイナンスの場合はどうだろう。エクイティ・ファイナンスを極論すると「投資家が資金を出して会社の株主になり、対価として株券を取得するファイナンス形態」だと言える。株券は「会社の所有者であることを示す権利書」みたいなもので、その価値は株券を発行した会社の価値に比例する。会社の価値が上がれば株券の株券の価値も上がるが、会社の価値が下がれば株券の価値も下がり、最悪の事態が訪れて会社の価値がゼロになれば株券の価値もゼロになってしまう。例えば出資した会社が倒産でもしようものなら、その会社の資産はまず債権者に分配され、株主は後回しにされてほとんど返っては来ない、つまり株主にとっては価値がゼロになってしまう。このように、株券を使うエクイティファイナンスでは投資した株の価値がゼロになるかもしれない、硬い表現を使うと「将来が担保されない」ことが出発点になっている。
それでも投資家が出資しようと思うのは、将来株価が値上がりして高値で売却するのを「期待」するからで、まさにこの「期待」がエクイティファイナンスの本質だ。株価の値上がりは会社の成長によって賄われる。投資家は会社が成長すると思うから(=株価が値上がりすると期待するから)その会社に投資するわけだ。このように、エクイティファイナスは「成長性志向」となる。(こうした成長性に着目する投資手法のことを証券用語で「グロース」といったりする)

起業家は外部から資金調達しようと思ったら、安全性志向のデッドと成長性志向のエクイティという本質的に異なる2つのファイナンス手法をバランスさせながら使い分けていかなければならない。例えば、創業当初から安定したキャッシュフローを見込めるならデッドが向いているだろう。逆に創業当初はほとんど営業キャッシュフローを出せないが、数年後には大きく成長すると見込まれる事業等はエクイティファイナンス向きだと言える。実務の現場では山ほどの細かな検討事項があるのだが、大枠はそんなところだろう。

注意すべきは、エクイティの方がデッドよりも資本コストが高いということだ。「資本コスト」というのはちょっと難しい表現だが、わかりやすく言うと資金の出し手に対する「見返り」だと思えばいい。デッドファイナンスの場合の見返りとはすなわち「支払利息」のことで、エクイティファイナンスの場合の見返りは「株の値上がり益+配当」になる。エクイティの見返りがデッドのそれよりも大きいのは、投資家が「投資資金がゼロになるリスクを取ること対価」だと考えればいいだろう。

ベンチャー企業が使いそうなデッドである商工ローンの場合にはこの見返りは数%~十数%といったところだろうか。エクイティファイナンスの場合にはこれよりも高くなり、べンチャー企業の場合には少なくとも20%以上、リスクの高い事業だと30%を上回ることもしばしばだ。スタートアップベンチャーの場合にはさらに高い見返りを求めらる。こうした高い見返りは、見方を変えるとベンチャー企業への投資家はベンチャー企業に対してこの見返りを賄えるぐらいの成長率を求めているということだ。

こうして見ていくと、VCの投資を受けるということは、対価として「大きな成長を目指さなければならない」ことがお解り頂けると思う。小さな成長ではVCは振り向いてくれない。大きな成長の先にあるものが株式公開であったり、さらなる大きな成功であったりするのだが、こうした大きな成長を目指している起業家にはVC資金が向いているといえるだろう。

起業家の皆さん、VCの資金の性格を理解して上手く付き合ってください。


レーターステージに集中する投資資金 [ベンチャー投資]

ベンチャーキャピタルの仕事でつらいことの一つに「ダウン・ラウンド」がある。

欧米の技術系ベンチャー企業への投資は一般にシンジケーションを組んで投資するが、「ラウンド」とはそうしたシンジケーション投資の単位の意味で使う。例えば、シードステージの会社への投資であれば「シード・ラウンド」、VCが参加した最初の投資ラウンドを「シリーズA投資ラウンド」、VCによる2回目の投資ラウンドを「シリーズB投資ラウンド」、、、等と呼んでいる。

2000年以降のバブル崩壊の局面でよく耳にした言葉が「ダウン・ラウンド」だ。ダウン・ラウンドとは、過去に終了したラウンドよりも会社の価値が下がったラウンドのことを指す。例えば、シリーズAラウンド後の会社評価額が10億円だったとして、シリーズBラウンド前の評価額が5億円に下がってしまうような場合、シリーズBラウンドを「ダウン・ラウンド」と呼ぶのだ。

このダウンラウンドは投資家に重大な悪影響を及ぼす。先の例でシリーズAラウンドで投資した投資家の場合では、自分の投資資金がシリーズBの段階で半分に下がってしまうことになるからだ。通常、VCは投資した後で投資したベンチャー企業を一生懸命支援するわけだが、ダウン・ラウンドによってそうした努力が水泡に帰すばかりか、価値が下がってしまうくらいなら投資も何もしない方がよかったということになってしまうのだ。

そうした苦い経験をした投資家は、会社評価額が上下しやすいアーリーステージ企業への投資を躊躇しがちなので、市場全体で見るとアーリーステージ企業への投資資金が不足し、逆にレーターステージに資金が集中してしまう。2001年ぐらいから見られた傾向だが、バブル崩壊から立ち上がって徐々に明るさが見えた現在の欧米市場にあってもアーリーステージ企業への投資は未だ盛り上がってこないように見える。例えばこんな記事を紹介しよう。

下降線のVCシードマネー

要約すると、「小企業は投資を必要としているが市場が十分供給しているとは言えない。もっと公的資金を投入すべきだ」というところか。この場合の市場とはVC業界のことを指すと思うが、VC業界がシード投資に積極的になれない大きな理由が先のダウン・ラウンドなのだと思う。まだバブル崩壊の痛手から完全には回復してないのだ。

ただ、こうした逆境を潜り抜けた者だけが大成するとも言えそう。ITバブル時代に大企業だったMicrosoft, Sun, Oracle等はみな80年代に創業し90年前後の不況を乗り切ってきた企業だった。今の時代を耐え抜いた企業が次の10年を担うものと期待して、明日もまたがんばろうかと思う。


Skypeの買収価格は高いか? [ベンチャー投資]

eBayによるSkype買収はどうやら本当だったようだ。買収総額は26億ドルだというが、今日はこの値段について考えてみたい。財務的な話しが中心になります、ご容赦を。またまたSkypeネタですみません。

Skypeの主力商品は無料で高音質な電話システムで、契約者数が54百万人、今年の売上見込が60百万ドルだという(以下、百万をMで表記)。会社の買収額$2,600Mを売上高$60Mで単純に割り算すると43倍となる。つまり、現在の売上高の43倍の価格で買収したことになる。ぱっと見では法外な値段に見えるが、これをどう評価したらいいだろう?

考えられる鍵の一つは将来のキャッシュフローの潜在力、もう一つはeBayにとっての顧客獲得コストではないか。

まず、Skypeが今後どの程度のキャッシュフローを生むか試算してみよう。

私自身Skypeを愛用しており、米国に住んでいるので日本とのやりとりには専らSkypeを使っている。私の周りではSkypeユーザはそれ程多くないので、Skypeから固定電話にかけることになる。通話の品質は落ちるが、それでも通常の電話に比べるとコストが圧倒的に安く、正確なところはわからないが1時間話しても通話料はせいぜい1ドルぐらいの感覚で使っている。半年前に購入したSkype-Outのチケットはまだ3ドル分ぐらいしか使っていない。ヘビーユーザになれば年間に10ドルぐらい使うこともありえなくない。こうした実際の体験を踏まえると、全Skypeユーザの10分の1の人が、Skype-Out等で年間にSkypeに10ドル使う、というのは十分ありえるシナリオだと思う。

実際、現在のユーザ数54M人×1/10×$10 = $54Mとなって、今年の売上高である$60Mに近い数字が出てくる。

Skypeが今後、世界で2億人(200M人)のユーザを獲得したとしよう。このとき、売上高はざっくり言って200M人 × 1/10 × $10 = $200M(2億ドル) となる。このうち約半分が諸経費等に使われるとして、毎年$100M(1億ドル)のキャッシュフローが生まれる計算だ。今回の買収額である$2,600Mはこの毎年生まれるキャッシュフローの26倍、つまり26年分となる。ちょっと乱暴だが、この程度のPERはよくある数字なのでそれ程割高とも思えない。

Skypeユーザが2億人になる日が来るかわからないが、全ブロードバンドユーザの何割かがSkypeユーザになりえると考えると、ありえない数字ではないと見る。

次に、eBayの顧客獲得コストの観点で見てみよう。

買収金額が$2,600M、現在のSkypeユーザ数は54Mなので、他の要因を一切無視すると、eBayはSkypeユーザを一人当たり $2,600M ÷ 54M = $48ドル で買ったと見ることが出来る。1998年、インターネットバルブ初期のドットコム企業の平均顧客獲得コストは約33ドルだったという。これがピーク時の99年には71ドルになったようだ。さすがにこのコストは高すぎて、これが原因となって破綻したドットコム企業も多かったようだ。そうしたことを考えると、現在の会員数を元に計算した48ドルという数字は少々高めではある。でもこの数字は先に述べた将来のキャッシュフローの影響や今後の顧客獲得の潜在力などを加味していない。

上記の二つ、つまり将来のキャッシュフローや顧客獲得コストをあわせて考えると、26億ドルという数字は決して高いものではない気がしてくる。

前提として下記を満たさないとならないだろう。

  • 将来、億単位のユーザーを獲得できること
  • ユーザー1人あたり年間1ドル(10人あたり10ドル)消費してくれるよう商品力を高めること
  • Skypeユーザのうちの何割かがeBayの新規ユーザになってくれること

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