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VC投資論はじめます [VC投資論]

これまでこのブログでVC投資に関するエントリーをいくつか掲載してきたが、パラパラしていてあまり取り纏まっておらず、VCの事情を多少なりとも知っている人でなければ取っ付きにくい内容だったように思う。今後はベンチャーに携わる人に広くVC投資の状況を知ってもらい、裾野を広げるための一助となれるよう、包括的にエントリーを書いて行きたい。



ということで、しばらく下記のようなシリーズ物を掲載します。各テーマについて一般にどんなことが課題になるか提起することを主眼におきたいと思います。内容は様子を見ながら深かったり浅かったりテーマを変えてみたりと調整していきます。



  1. VCとは何か
  2. ファンドとは何か
  3. 投資リスクとVCの力量
  4. 資本政策と投資ラウンド
  5. バリュエーション
  6. 種類株について
  7. 出口の考え方
  8. 海外の常識と日本の常識
  9. VC投資の功罪
  10. 結論:VCとどのように付き合うべきか

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ベンチャー投資のターミナルバリュー [VC投資論]

前回、ベンチャー投資の資本コストについて触れたので、せっかくだからターミナルバリューについても触れよう。



キャッシュフローが安定している企業の場合、ターミナルバリューを想定するのは比較的容易だろう(ターミナルバリューを含めて、少し体系的に勉強したい方はこちらがお勧め)。キャッシュフローが安定していれば下記の式により比較的簡単に求められる。

ターミナルバリュー=予測最終事業年度のFCF÷(割引率-成長率)

問題は、キャッシュフローが安定していない場合だ。成長著しいベンチャー企業では等比級数的に事業を拡大する計画を立てることがしばしばある。実際、年率100%を超える成長率で売上高が倍々に伸びていく企業もしばしば目にする。この様な企業では創業からしばらくの期間、キャッシュフローがマイナスであることも多い。このように急激に成長し、かつキャッシュフローがマイナス気味の企業の価値をDCF法で計算しようとすると、会社の価値のほとんどはターミナルバリューに依存することがわかる(試しにやってみてほしい)。これは重要なポイントだ。ベンチャー企業のような急成長の会社を価値をDCF法で算定しようとすると、ターミナルバリューを如何に計算するかで全体の価値が大きく左右されるということだ。



このように重要なターミナルバリューをどのように算定すべきかについては諸説あるが、私自身は類似企業の市場価格を参考にしながら算定するのが多くの場合に現実的だと考えている。DCF法はキャッシュフローを積み上げて計算するのが前提であるのに、そこにいきなり市場価格の概念を入れてしまうのはどうかと思うが、そこそこ納得できる価格が出てくるというのは説得力がある。



この点については皆さんの意見もお聞かせ頂ければ嬉しい。


優先株の怖さ [VC投資論]

ベンチャー企業のファイナンスにおいて優先株を使うとき、忘れてはならない原則がある。



  1. 優先株は他の株よりも優先的に利益にありつける
  2. 古い優先株は新しい優先株よりも劣後する


1は自明でしょう。優先株は普通株などの他の株式に比べて配当や分配が多いとか希薄化防止条項等の特殊な権利を受けられるといったメリットがある。VECが優先株のメリットをまとめているので興味のある人は参考にしてみるのもいいだろう。



しかし、2についてはまだあまり日本では知られていないようだ。Aという優先株が既にあったとして、その会社が新たにBという優先株を発行する場合、通常新しいB優先株はA優先株よりも優先的に権利を受けられ、その結果A優先株はB優先株に劣後する、ということだ。例えば会社がM&A等で売りに出された場合、A優先株の株主よりもB優先株の株主の方が優先的に分配を受けられるということを意味する。まぁここまではそういうものかと納得もしやすいところだ。



問題は、会社の資金繰りが逼迫している場合だ。このような場合には四の五の言ってないで急いで資金を投入しないと会社がつぶれてしまう。だから、株式の発行会社の立場は弱く、逆に投資家の立場が強くなりがちで、株式の発行条件を決める際に投資家の意向を全面的に受け入れざるを得なくなる。いろいろなケースがありえるが、一例を挙げるとこんなことが起こりえる。



  • 株価が下がる(ダウンラウンド)。その結果、古い株式を持っている人の持分は急速に低下する。
  • 新しい優先株に極めて多くの特典が与えられる。その会社が成功しても新しい優先株が多くの利益が配分され、古い優先株にはそれ程利益が配分されない。
  • そのファイナンスが発行会社への救済措置的な意味合いが強い場合、そのファイナンスに参加しない投資家が保有する優先株には懲罰的な措置が取られる。その結果、古い優先株が普通株に転換されたり、極端な場合には償却される(株券の権利が消滅する)。


どれも海外VC市場において2000年以降にしばしば起こってきたことだ。上記のような厳しいレッスンを経てもなお優先株を使うメリットがあったのだろう、海外VC市場上記のような課題を克服する手段について一定の定石が出来ているように思われる。



日本でもこれから優先株(種類株)が増えていくように思うが、優先株を扱う上では上記のような数々の課題を乗り越えていかなければならない。研究開発型のベンチャーを多く育てるには必要なプロセスではないかと考えている。



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ベンチャー投資のバリュエーション [VC投資論]

投資家にとってバリュエーションは永遠の課題だ。ベンチャー企業に投資するときや売却するときは、株価を決めるために会社の価値を算定しなければならないが、これが容易な作業ではない。客観的なデータを出来るだけ多く集めて、論理的にバリュエーションをはじき出そうとはするものの、どうしても客観的に説明のつかない部分が残り、そうした部分に対して何らかの仮定をおいて進まざるを得ないものだ。こうした曖昧さがバリュエーションを難しくしている。



バリュエーションの算定手法は大きく言って次の2種類からなるようだ。



  1. 類似企業との比較によるアプローチ
  2. 将来の利益やキャッシュフローを積み上げて適当に割り引くことによるアプローチ


「類似企業アプローチ」は、例えば類似企業のPER(株価収益率)を使って価値を算定するアプローチが有名だが、これに似た手法として日本では将来の利益にPERをかけてこれを現在価値に置き換えるベンチャーキャピタル法等がよく使われるようだ。海外ではこの他にPSR(時価総額と売上高の比率)やPCF(時価総額とキャッシュフローの比率)も使われる。特に技術開発型で赤字が長期間続くベンチャー企業のバリュエーションではPSRが使われることが多い。このほか、バイオベンチャーなどでは取り扱っているパイプラインの質や量でバリュエーションを算定しているところもあるようだ。



「積み上げアプローチ」で代表的なところはDCF法だが、いくつかのシナリオに基づく価値を算定して期待値を計算するファーストシカゴ法等もあるようだ。キャッシュフローが安定した企業の場合には、キャッシュフローに与える税金の影響を考慮したAPV(Ajusted Present Value)法も使われるらしい(バイアウト投資の分野でしばしば聞く)。



日本のベンチャーキャピタルの実情について、京都大学の濱田教授らが「我が国ベンチャーキャピタルの投資実態」と題するレポートを出しているが、このレポートの10ページでバリュエーション手法についても触れられており、類似企業との比較、DCF、ベンチャーキャピタル法などが主流だと見て取れる。興味ある方は見てみるといいだろう。ちなみに濱田教授は日本ベンチャーキャピタル協会の設立に尽力された方で、学会における日本のベンチャーキャピタル研究の第一人者です。



このように、バリュエーションの手法はいくつかあるが、それぞれ課題も多い。類似企業との比較では、どの企業を「類似企業」と見なすかによって結果が大きく左右される。小規模な会社を大企業と比較するの利益率や成長率の点で無理があるし、似たような業界の企業であってもビジネスモデルや収益構造が全く異なることもしばしばで単純に比較出来るものではない。一方の積み上げアプローチは、将来の姿を仮定して算定するもののため、仮定を作る段階において何らかの恣意が入らざるを得ない。さらにこれをどのくらいの割引率で割り引くかが難しいところだ。技術開発型ベンチャーのように目先数年間は赤字が続くような企業の場合、将来価値のほとんどはターミナルバリュー(残存価値)に大きく依存するため、このターミナルバリューを如何に見るかでバリュエーションが大きく左右されるところも問題だ。



そうした数々の「仮定」を踏まえ、発行会社と投資家の交渉を経て、最後は文字どおり「エイヤッ」で決まる。バリュエーションはかくもアートなものです。



私としては、目先のことに囚われず、3~5年後の中長期を見据えて無理のない数字を使うことをお勧めします。実際、日本で公開したベンチャー企業を見ていると、未公開の段階では比較的控えめな(低めの)バリュエーションを使う企業が多かったようです。最近では投資家同士の競争が激しくなってバリュエーションが上昇傾向になっているという話もよく聞きますが、過度に高いバリュエーションは後でトラブルの元になりかねないので注意すべきだと思います。


優先株の相場観 [VC投資論]

日本で優先株を使ったVC投資が増えてきているそうだ。
数年前から「種類株」を使う例はあったようだが、まだまだ普通株による増資が圧倒的に多いものだと思っていた。それが、ここへきて複数のルートから種類株による増資の話を聞くに及び、日本で優先株の導入が本格的に始まる機運が高まっている気がする。



優先株は普通株に比べて「何か」が優先するから優先株と呼ばれる。何を優先させるかについては当事者同士の話し合い次第でどうにでもなるわけだが、この「何か」について誰かが基準を作っているわけではないので、いざ実際に優先株を作ろうと思うと、何をどのくらい優先させるかについてはたと困ってしまうものだ。



優先株の使用が一般的な欧米諸国では、優先株が持つ権利の中身について一種の「相場」があって、順調なベンチャー企業への投資の場合には「これくらい」、苦労しているベンチャー企業への投資の場合には「あれくらい」、というようにだいたいのコンセンサスが業界内で形成されている。大手法律事務所らがこうした優先株の権利の中身をリサーチして四半期に一度ぐらいレポートを出したりすることで新たな相場観の形成に一役買っており、大いに重宝がられる。ベンチャー投資に携わる者としては、バリュエーションと並びこの相場観はとても重要だ。



日本でも今後試行錯誤を繰り返しながら日本の実情にあった「優先株の相場観」が形成されていくのではないか。未公開投資の世界では投資してから結果が出るまで概ね3~5年ぐらいかかることを思えば、優先株を使うことによるメリットやデメリットが理解され、適切な相場観が形成されるまで、やはり3~5年ぐらいかかるのではないかと想像している。



参考:




CEOを換えるとき [VC投資論]

欧米のVC投資の世界では、投資しているベンチャー企業のCEOに交代を迫るときがしばしばある。これが簡単ではない。



株式会社のシステムでは、株主は出資することで会社を所有すると同時に経営を経営者に委託する。経営者を信じることが出来なけば委託する気になれず、投資家はいつも経営者を信頼できるかどうかに細心の注意を払っている。経営者に会って話をしたり、いろいろと経歴や素性を調べた挙句、「この人なら大丈夫」と思えるときだけに投資する。



ところが、最初はいい感じに思えた経営者も、出資した後に幾多の試練を経るうちにそれまで見えなかったものが見えてくるものだ。株主と経営者の関係は「結婚」とよく似ている。人間誰しも長所短所はあるものだから細かいところには目をつぶりましょう。離婚なんてしたらお互い不幸で疲れるだけだし。でも、時にはどうにも我慢がならない事態が起こることがある。たとえば、



  • 事業計画をほとんどまったく達成できない。いつも市場環境などの外部要因のせいにし、内部要因を省みない。
  • 節操がない。事業計画をころころ変えすぎる。現場が混乱し、何をやっているのかわからなくなる。
  • 人望がない。従業員がついてこない、従業員とトラブルを起こす。


などなどだ。ベンチャー企業の株主達(多くの場合取締役兼任)は、なんとか現在の経営者を支援してやっていこうとするが、我慢も限度に達すると経営者を変えようという話になる。うまくいっていないベンチャー企業ほどしばしばこの手のことが起こる。



これは株主にとっては苦渋の決断だ。なぜなら、実際に経営者を交代させるには、まず現経営者を説得してトラブルなくやめてもらうこと、苦境を救ってくれる代わりの経営者を見つけ出すこと、移行期間中に社内体制の動揺を最小限に抑えてオペレーションをまわし続けること、、、といったことをこなさなければならないが、どれもこれも難問だ。実際、これらのポイントについてしばしば問題が発生し、裁判沙汰になったり操業が危機的状況になったりする。そして何より、誰かをやめさせるというのは誰しも良心の呵責に耐えないものだ。



それでも投資家としては投資した資金を回収してリターンを得るべく、必要な措置を取らなければならない時があり、欧米のVC投資の世界では頻繁に起こる。代わりのCEOになりえる人材をどれだけ知っているかがVCの力量だったりする面もある。僕自身もCEOを変えて業績が急上昇した会社を知っている。投資家というのはつらい仕事だ。


投資家のコミットメント [VC投資論]

ベンチャー企業がVCから出資を受けるとき、ベンチャーの経営陣はVCに対して事業計画の達成をコミットメントしなければならない。VCがベンチャー企業に対して無担保で資金を提供しようと思うのは、ひとえにベンチャー経営陣が将来をコミットしてくれるからだ。経営陣のコミットに基づいて将来への期待が生まれ、投資しようという意欲が生まれる。もちろん投資した後でコミットメントどおりに事態が運ばず事業が難航するのはよくあることで、そのあたりの事情もVCは良くわかっている。「コミットメント=確約」ではないのだろう。しかしながら、VCがベンチャー企業を信じて出資することが出来るのは、ひとえにこのコミットメントがあるからで、これがないと何も始まらないのだと思う。



一方、VCもベンチャー企業に対してコミットメントが求められる場面がある。出資したベンチャー企業の事業が難航したとき、VCが財務的・事業的にいかに支援してくれるか、出資を受けるベンチャー企業からしたら大きな問題だ。VCの支援が質・量とも高い水準にあれば、やがてそうした支援が業界内で評判を呼び、そのVCの将来の事業拡大に貢献するといった仕組みがあるので、どこのVCも自分で手がけた案件は極力支援するものだ。



ところがVCの後ろにいる機関投資家が絡んでくると話が複雑になる。VCファンドに出資している機関投資家達の多くは金銭リターンを得るのが目的のため、損失を出さないようVCに対してプレッシャーをかけてくる。目の前で困っているベンチャー企業がいても、VCとしてその企業を財務的に支援することがVCファンドの損失を拡大されることにつながりかねない場合があって、機関投資家の顔を考えると財務支援に二の足を踏むことがしばしば起こる。



私が最近取り組んできた案件もそんな苦労話だ。主要投資家が5社、投資期間は概ね5年におよび、出資を受けたベンチャー企業はまだ黒字化していない。苦労している案件だ。先行きも茨の道が続きそうだ。投資家が追加で資金提供しないと遠からずこの会社は潰れてしまう。でも投資家のうち3社はファンドから出資しているため機関投資家の顔を考えると簡単に追加出資に合意することは出来ない。1社でも弱気なことを言い出すととたんに他の投資家も腰が引けてくる。神経が磨り減るような協議を重ねたが、なかなかまとまらず時間だけが過ぎていく。



結局のところ、この案件では創業期から支援していた投資家が単独でこのベンチャーを支援することで話がまとまった。太っ腹で気概のある投資家だ。素直に賞賛したい。でもそこに至るまでには投資家同士で喧々諤々の言い争いがあった。追加出資に参加するほうもしないほうも何とも後味の悪いものである。



投資家のコミットメントとは何なのか、改めて考えさせられる。


大願成就 [VC投資論]

Img00191546足掛け4年に渡ってかかわってきた会社がようやくEXITする。海外の厳しい出口市場にあって何とかEXITできたことだけで純粋に嬉しいし、肩の荷が下りてほっとした。



この会社は欧米にある技術開発型ベンチャーで、技術的に優れたものを持っていたので早い時期から市場の注目を集めてはいた。しかし、実現にはまだ相当の時間がかかると危ぶむ声もあった。僕も投資家として1年間程会社の状況を静観した後、3年ほど前にリード投資家として投資を実行し、以来、取締役としてこの会社の経営にかかわってきた。



その後、たまたま大手日系企業がこの欧米ベンチャーに目をつけたのが2年前。僕はベンチャー企業の側に立ち、日系企業相手に半年近くに及ぶタフな交渉の渦中にいた。日本と欧米諸国の人々の商談の進め方や交渉の仕方はこうも違うものかと悩み、一時は意思疎通の不備から商談が破談しかける場面もあった。このベンチャーの取締役として、また日本人として、この日系企業の役員と小料理屋で直談判してなんとか相手を引きとめ。寝技足技使えるものは何でも使ってどうにか双方を再び交渉のテーブルに着かせ、どうにか商談をまとめさせることが出来た。



この商談が呼び水となって大きく飛躍するかと期待したのも束の間、技術開発が難航して計画が遅れだした。計画どおりに技術開発に成功すれば、多くの商談が期待され、それを見た投資家が殺到して膨大な資金が集まり、さらなる大規模な開発に着手して見る見る事業規模が大きくなって、やがては壮大な夢が現実のものとなるだろうと誰もが期待した。しかし、現実はそんなに簡単ではなかった。



技術開発が遅れた結果、顧客企業との商談が遅れ気味となり、これを見た投資家が躊躇して資金調達が不発に終わり、資金繰りに給することとなった。リストラを行い、内輪から小額の資金を何とか調達して窮地脱出を図った。その後、幸いなことにある企業が買収に興味を示し、再び半年以上に及ぶタフな交渉の末、ようやく双方が合意してベンチャーを買われることとなった。投資してからの3年間というもの、次々に問題が起こるのであまり気が休まらなかったが、この売買完了を以ってようやく一仕事終わった感じだ。



こうした交渉の渦中にいると、いろいろな人間の生き様が見えてくる。いつも冷静な人、論理的な人、近視眼的な人、熱しやすい人、肝が据わっている人、経験豊富な人、、、、この人には敵わないと思う人ばかりだ。僕自身、まだまだ経験が足りないようだ。



成功体験(というには大した成功ではないが)を通して生まれた信頼関係は何者にも変えがたい。このベンチャーを通じて知り合った人とは今後もうまくやっていけそうだ。一生のうちに何回こうした成功にめぐり合えるかわからないが、更なる経験を積んでいきたいものだ。


会社が壊れる時 [VC投資論]

ベンチャーキャピタルをやっていると会社の清算に立ち会うことがある。清算というのは、取締役会決議と株主決議により会社を法的に解散し消滅させることだ。



清算の現場に立ち会うのはつらい。起業家が夢を抱いて起業し、苦労して資金や人を集め、だんだん大きくなってきたにも拘らず資金繰りに窮し、ある日突然自らの意思で会社を畳む決心をしなければならない。起業家に共鳴して集まっていた投資家や従業員や顧客(=債権者)も清算となると態度が一変し、それぞれ自分の立場から勝手なことを言い出す。こうなると起業家の夢はもうどこかに吹っ飛んでしまい、みんなどれだけ自分の取り分を確保できるかに興味が向いてしまい、殺伐としてくる。社長や会長といった中心的な立場にある人がしっかりしていればいいが、そうでないと大変だ。



こういう極限状態の中ではその人の性格が出るものだ。私がこれまで立ち会ってきたケースでは幸いにして起業家の方は最後まで冷静かつ公正であった。感情に流されること無く、粛々と利害を調整して関係者の同意を取り付け、話をまとめて行った。こういった方々は起業家である前に人として信頼できる。事業には失敗したかもしれないが、修羅場における対応振りには感動だ。不思議なものでそうした起業家の方々とは今も付き合いが続いており、その多くは今も違うベンチャー企業で活躍している。



こうした失敗が人を大きくするのかも知れない。


日米VCの違い:EXIT [VC投資論]

"EXIT"というのはVC業界特有の言葉だが、株式公開なりM&Aなりで手持ちの未公開企業の株式を換金可能な公開株に変えて売却し、投資を終了させることを言う。このEXITこそがVCの売上の源泉となる極めて重要なイベントなのだ。



ベンチャー企業の株式公開に関する限り、現在の日本は世界的に極めて恵まれた状況にある。毎年100社以上のベンチャー企業が公開する市場はそれほど多くない。しかも驚くほど取引が活発で流動性が高い(少なくとも公開直後しばらくの間は)。日本のベンチャー企業の皆さん、日本の株式市場は世界的に見てもとても恵まれた状況にあります。



アメリカは日本よりももっとずっと厳しい状況にある。ネットバブル崩壊後、米国のベンチャー公開市場として機能していたNASDAQは2002年前後は完全にIPOがストップした。IPO件数はその後緩やかに上昇しながらも現時点ではまだまだ盛り上がりに欠けている。
いろいろな理由があるだろうが、まず第一に投資家がそれ程IPOには熱狂していないように見える。加えて、IPOを引き受ける証券会社の要求がとても厳しいようだ。たとえば、○○業界でIPOするには、売上高○○○ドル、利益○○ドル、利益率○○%、といった具合のコンセンサスがあって、このコンセンサスをクリアしないと公開にたどり着けない。このコンセンサスがざっくり言って日本の数倍以上あるのだ。
さらに、SOX法が大きな影を落としている。SOX法の下では、CEOとCFOは様々な義務を負うが、たとえば会計報告書に虚偽や記載漏れがないことを保証しないとならず、虚偽があるとCEOとCFOは刑務所に入れられることになる。これに対処するため、米国で公開を目指すベンチャー企業は会計システムや内部統制システムを多大な手間隙をかけて作らないとならず、大きな負担になっている企業が少なくない。



これだけ厳しい状況にありながら、ベンチャー投資の総額は衰えていない。EXITもどっこい頑張っている。このあたりがアメリカVC業界の底の深さなのだろう。米国でのIPOが難しいのでM&Aを多用してなんだかんだいってEXITさせたり、アメリカ以外の市場(イギリスなど)での公開を実現してしまったり(英語圏の強み!)、あるいはアメリカへの投資に見切りをつけて中国やインド、イスラエル、ロシアなどへ投資をシフトさせたりしている。そうしたダイナミックさがアメリカの真骨頂なんだと思う。



アメリカ人の間で日本のVC業界が話題に上ることは驚くほど少ないが、僕の目から見ればきちんと情報が伝えられていないだけで、納得のいく説明が出来れば再び彼らが日本に目を向ける日が繰るのではないか。実際、アメリカ発の再生ファンドやバイアウトファンドなどはうまく日本に上陸しているように見える。今後、この動きがEXITが好調な日本のVC市場に再び向けられる日が来るかもしれない。


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